第1章 日ノ本一の…(上杉謙信)(R-18)
薪をくべてため息を吐いた。
謙信「尚文、居るか?」
「はい」
謙信「何か話をしろ」
(え!?なんの話をしろと?)
くだらない話をして機嫌を損ねてしまったら大変だ。
(えーと、えーと………そうだ!)
「梅の怪我はすっかり良くなりました。他のうさぎ達と一緒に庭で遊んでおります」
謙信様がくすりと笑った気配がした。
謙信「見分けがつくようになったか?初日は梅を見失い、大変だったそうだな」
「兼続様から聞いたのですか?初日は苦労しましたが、今は見分けがつくようになりました。庭のうさぎ達は謙信様が居ないと、心なしか寂しそうにしておりました」
謙信「そのようだな。湯浴みが終わったら会いに行くつもりだ」
「はい、きっと喜ぶと思います」
噂話でしか謙信様を知らなかった頃は、戦好きの恐ろしい方だとばかり思っていた。
庭のうさぎを大事にして、こんな見習いにまで心を割いてくださるお優しい方だとは……。
どうして女嫌いなのかわからないけれど、勿体ないなと思う。
火の勢いが増したので、炭と炭の間隔をあけていく。
ガサリ、ガサリと炭を動かす音が響いた。
「…そういえば謙信様が留守の間に、庭の木に登り、からすの巣をいくつか撤去致しました。巣はからっぽでしたが、放っておけばまた産卵に訪れると思いますから」
謙信「…お前が木に登ったのか?」
「はい。佐助殿に作って頂いた、えー…『すぺしゃるめにゅー』とやらで鍛錬していたところ、身が軽くなりました。するすると登れたので自分でも驚きました。ただ…」
謙信「ただ…なんだ?」
「登ってみて気が付いたのですが高い所は苦手のようです。これも慣れるものでしょうか。
謙信様は高い所は平気ですか?」
ひと月近く見ていて、謙信様の弱点を見たことがない。
何か苦手なものは無いのか好奇心が湧いた。
謙信「高い所は平気だ。暇な時は佐助とともに城の屋根裏を見て歩く時もある」
「……謙信様が屋根裏部屋を……?」
謙信「そうだ。だから襖の方ばかり警戒していると後ろをとられるぞ?」
からかうような小さな笑いが聞こえてきた。