第14章 9月の夏休み!(謙信様&光秀さん)
「いっちゃった………」
1人きりになった縁台で、冷えたお茶を飲んだ。
謙信様も光秀さんもはっきりした気持ちは言わなかった。
(私が困らないよう、配慮してくれたんだろうな)
でっかい子供だと思った二人は、やっぱり大人の男の人だった。
配慮しながらも、鈍い私が気づけるように示してくれた。
(ずっと喧嘩ばっかりしていたのは、もしかして私を独占したくて…?)
喧嘩していた理由を思い起こせば、どれも独占、嫉妬、牽制が含まれていたと、今更……気づいた。
(私が気づいていなかっただけで、三角関係だったんだ)
「いつか信長様に『悪女』だって言われて否定したけど、もしかして私って本当に悪女?」
光秀さんにも謙信様にもドキドキする。
素敵な二人に思われるなんて夢じゃないだろうか。
「私が勝手に思いこんでるだけかな。
んー、むー…気のせいにするのも無理な話だよね」
湯呑のお茶は空っぽなのに無意味に唇をつけて傾けている。
「二人の気持ちに気付いたばっかりで私の気持ちも定まっていないんだし、この件はしばらく置いておこう」
多少考える時間をもらっても良いだろう。
光秀さんと謙信様は今すぐ返事をくれとは言わなかった。
夏休みを楽しく過ごせた。
二人の気持ちを知ることができたし、新たな面をたくさん見られた。
やらかしてばかりの私を、謙信様も光秀さんも笑って見ていてくれた。
今はそれだけで良いことにして、空っぽの湯呑を置いて立ち上がった。
「よーし、光秀さんと謙信様に素敵な着物を縫おうっと。
反物屋さんに寄って生地選びしようかな」
今はまだ選べない。
選ぶだなんて失礼だけど、本当に……同じくらい惹かれてドキドキしている私が居る。
私はまだ針子見習いの身だ。
この時代の和装を学びたいと帰ってきたんだから、できるところまで極めたい。
ひとつでも誇れるものを持たないと、いくら好意を持ってくれていると言っても、高みに居る二人に到底つり合わないから。
誇れるものを自分で手に入れて、この時代で生きられるよう学んで自信を付けたい。
(いつか心が決まったら全力でぶつかっていけるように、今は生きる術を身につける時だ)
そう決心して歩き出した。