第1章 日ノ本一の…(上杉謙信)(R-18)
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「湯浴みでございますかっ!?」
謙信「何をそんなに驚いている」
城に帰ってきた謙信様をお迎えすると、湯浴みをするからついてこいと言われた。
戦から帰ってきてすぐに湯浴みするのは当たり前のことだ。なんの不思議もないことに声をあげてしまったので謙信様が怪訝な顔をしている。
(どうしよう、殿方の…まして謙信様の裸なんて見たら卒倒するわっ)
いくら見ないように努めても、限界というものがある。
「…………先輩方をさしおき、謙信様のお身体に触れるのは叱られますのでご容赦願います」
謙信「俺はお前に頼んだのだが」
頭が痛い。どうしたらこの危機を乗り越えられるだろう。
「いえ…どうしてもというならば火の番でご納得いただけないでしょうか?」
謙信「おかしな奴だ。それならば火の番をしながら話し相手をしろ」
「話し相手ですか?わかりました」
外にまわり湯釜に火をいれていた人に話をして交代してもらった。
やったことがなかったのでやり方を教えてもらい、謙信様が来るまでの間、薪を運んでおいた。
(もうお湯は沸いているから、お湯の温度を維持する程度で良いんだよね)
時折火に息を送ると、炭がパチパチと爆ぜた。
少しすると謙信様が湯殿にいらした音がした。
蒸気が湯殿にいきわたるように窓は閉められているけれど、隙間から湯気が細く漏れている。
(ところで話し相手なんて……何をお話すれば良いのかしら)
父上や兄上は湯殿で特段お話などしていなかった気がする。
とりあえず声をかけられるまでは黙っていよう。
「………」
謙信様と付き人の声が時折聞こえ、お湯をかけている音がする。
(…なんだか覗きでもしているような気分だわ…)
なんでこんな所にいるのか情けなくなってくる。
謙信様の湯浴みのお手伝いを命じられるなんて本来は嬉しいことのはずなのに…つくづく女であることが恨めしい。