第14章 9月の夏休み!(謙信様&光秀さん)
「お気遣いありがとうございます、光秀さん」
光秀「目をつぶるのは明日までだ。明後日以降、城下で謙信を見かけたら捕らえる」
「明日会った時に伝えますね」
明後日から休戦状態だった二人が再び敵同士になり、命のやり取りをする。
やり切れない気持ちに小さく息を吐いた。
仲良くは無理だろうけど、同じ時間を共有し、何かしら分かり合ってくれたらと思っていた。
(二人が争ったら、胸が潰れそう……)
けれど、それが戦国時代の理。
謙信様には謙信様の、光秀さんには光秀さんの、目指すモノが違うからぶつかり合う。
光秀「あの時代で育った舞には、この世は本当に残酷だろうな。
正直、何故舞がこの時代に戻ったのかわからない」
「あの時代になくて、この時代にあるものがあるんです。
それはかけがえのないもので、どうしても諦められなかったんです」
『戦国時代の和装に惚れ抜いているから』とは言いづらくて、含ませた言い方をした。
光秀さんが片手を口元にやり、首を傾げた。
光秀「舞にしては難しい謎かけだな」
「ふふっ、光秀さんは頭が良いから、すぐ気づいてしまうかもしれません」
光秀「ではわかるように四六時中居なくてはな?」
「月の半分も安土に居ないお仕事をしているのに、四六時中なんて無理でしょう?」
うるさく胸が騒ぎだしているのを押し隠し、言い返した。
光秀さんは答えず、代わりに私の前に置かれているお金に目をやった。
光秀「舞に立て替えてもらった金を返し、ブレスレットの所有権は俺に移った。
ならば好きにさせてもらって良いか?」
「わざわざ言わなくても光秀さんのものですよ」
誰にあげるんだろう。
付き合っている人とか?もしかしてこれから告白するのかもしれない。
唇が渇いたふりをして、少しだけ噛んだ。
下唇が湿って、歯型がうっすらとついたかもしれない。
「早く渡してあげてください。きっと光秀さんの帰りを待ってくれていますよ」
(私だって嘘をつけるんだから)
これは誰も傷つけない嘘。私だけが傷つく嘘だ。
3日間、私にだけ向けられていた優しさが他の女性に向けられるのが面白くないだけ。
勝手な言い分に嫌気がさした。