第14章 9月の夏休み!(謙信様&光秀さん)
謙信「今日のところは安土へ行く。
佐助が事情を察してくれたとは思うが、どのような手を打ったのかわからん。
隠れ家に居る家臣達に無事を知らせておいたほうが良い」
「良かった。いきなりここでお別れだと言われたら寂しくて引き留めてしまうところでした」
謙信様は一瞬目を瞬かせ、やがて零れるような笑顔をみせた。
謙信「嬉しいことを言ってくれる」
光秀「隠れ家にいる家臣が捕まっていなければ良いな?」
途端に謙信様の表情が冷たいものに変わった。
謙信「雑な見回りをしている連中に、俺の配下が捕まるわけがなかろう」
光秀「油断していると足元をすくわれるぞ?」
「こっちに帰ってきて早々、喧嘩をしないでくださいよ~」
謙信様も光秀さんも普段は大人の男性らしい振舞いなのに、本当にどうしちゃったんだろう。
光秀「謙信と喧嘩ならあっちでもしていただろう。今更だ」
「そうですけど…」
謙信「明智と俺は水と油のようなものだ。どうあっても混ざり合わん」
「もう…ほんと仲が悪いですね。喧嘩するほど仲が良いっていうのは嘘ですかね、はぁ」
しかめっ面で文句を言うと、二人は小さく笑って城下に足を向けた。
心地良い沈黙が下りてきて、旅の最後になる道を三人並んで歩いた。
――――
大通りで別れる際、謙信様が私を引き留めた。
謙信「舞。明日の正午、この間の茶屋に来てくれるか?
越後に帰る前にもう一度舞の顔が見たい」
「……っ、はい」
謙信「気をつけて帰れ」
謙信様がこちらに背を向けて歩き出した。
その足は隠れ家に向かっていると知っていても、光秀さんは振りかえらず、安土城に向かった。