第14章 9月の夏休み!(謙信様&光秀さん)
(第三者目線)
謙信「寝てしまったのか」
光秀「こんなところで一人で居たのか……」
光秀の目が、テーブルに用意された3個のグラスを捉えた。
光秀「最後の夜に寂しい思いをさせてしまったな」
謙信「…すまない」
ソファで寝ている舞を覗き込んで二人は謝った。
その声に反応した舞が身じろぎ、ヘラッとした笑いを浮かべた。
「んーーーーー、おやすみ~~」
言い放たれた寝言に謙信も光秀も同時に吹き出した。
寝ながら就寝の挨拶をされたのは初めてだ。
光秀「器用な女だ。おやすみ、舞」
謙信「おやすみ。良い夢を見ろ」
寝顔を見守る眼差しは二人とも柔らかい。
敵を目の前にして尚、抑えきれない愛おしさを滲ませている。
謙信「俺が運んでも良いか。さっき舞に要らぬ気をつかわせてしまった」
謙信が抱えているものは『憂い』などと表現できるほど生易しいものではなかったが、舞がくれた言葉が嬉しかった。
長いこと仕舞いこんでいる古傷に触れられても不思議と不快に感じなかった。
光秀「任せる」
光秀は素っ気なく返事をし、戸締りを確認しにソファを離れていった。
謙信「……」
束の間の二人の時間に、謙信は指先で舞に触れた。
化粧を落とし、昼とは違う顔に指先を滑らせる。
謙信「ひとりではどうしても乗り越えられなかった傷だ。
舞となら……」
「ん…」
僅かに笑んだ唇に満足して、謙信は舞を起こさないように抱き上げた。
謙信「前に進める気がする…」
静かに歩み寄ってきた光秀がベッドルームの扉を開け、謙信と舞を中に通した。
ピ…という音がしてリビングの照明が落ち、ベッドルームの扉が静かに閉まった。