第14章 9月の夏休み!(謙信様&光秀さん)
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光秀さんはもう少し外を見ていると言っていたので、私だけリビングルームに戻ってきた。
(謙信様は向こうのバルコニーかな…)
安否確認じゃないけど謙信様が居ることだけ確認しておこう。
南側のバルコニーに近づくと謙信様がソファに座り、海の方角を見ていた。
謙信「ああ、舞か。風呂からあがったのか?」
気配を悟られ、謙信様がこちらを振り返った。
「はい。酔っぱらっていたのでシャワーだけにしました。明日の朝、時間があったら湯船に浸かろうと思います。
それより今日は愉しかったですか?強引に海に連れ出してしまいましたが、大丈夫でしたか?」
謙信「海があのように透き通り、生(せい)あるものがたくさん居るとは知らなかった。
連れて行ってくれて感謝している」
謙信様は手招いて、私が首にかけていたタオルを取って半乾きの髪を拭いてくれた。
(謙信様に髪を拭いてもらうなんて……!)
誰かに髪を拭いてもらうなんて、大人になってからはなかった。
心得ているようで、髪を傷ませないようにタオルで髪を挟んで押さえるようにして拭いてくれる。
慣れた手つきに『もしかしたら誰かの髪を拭いてあげたことがあるのかな』と勘ぐってしまった。
胸がキリっと痛んだ。
謙信様が誰かの髪を拭いてあげていたとしても、お茶友程度の私にそれをどうこう思う資格はないのに。
謙信「ここは夜でも暖かいが、髪はちゃんとしておけ。風邪をひく」
「はい、ありがとうございます」
謙信様は視線を海へと戻した。
謙信「昼に見た海の美しさを忘れられなくてな……。
日の光がない夜の海はどうなっているのかと考えていた」
高く上がった月が謙信様の顔を淡く照らし出している。
遠くを見る二色の瞳は海に魅入られたように光っていて、城下で会うたびに感じていた憂いの影が消えていた。
(綺麗な横顔だな…)
「夜の海を探索して研究している人達もいますが、全部は解明されていません。
人間が見ているモノは広く深い海の一部で、本当のところは海の住人にしかわらかないのでしょうね」
波の音が心地良く耳に響く。