第14章 9月の夏休み!(謙信様&光秀さん)
胸の前で両手を交差させてガードした。
「私は脱ぐ予定がないので結構です!
このラッシュガードは紫外線をほとんど通さないのでっ」
光秀「まぁ、遠慮するな」
「いいっ、いいですっ!謙信様っ、たすけ、むぐ!」
すっと伸びてきた人さし指が、唇の動きを封じた。
光秀「他の男の名を口にするな」
睨まれて身動きできなくなり、その隙を突くように日焼け止めが付いた両手が伸びてきた。
「や、だめっ……あ………れ?」
光秀さんの手が、そうっと私の耳に触れた。
目が合うと鋭かった目つきは優しいものに変わっていた。
(塗ってあげるって、もしかして耳のこと?)
脱がされて背中に塗られるのかと、とんでもない勘違いをしてしまった。
光秀「どうした?」
楽しげな視線に、茶化すような口調。
………完全に揶揄われた。
「いえ……ぁ…」
光秀さんの親指に何度も耳たぶを撫ぜられて、唇から吐息がもれた。
身体の奥に、甘い火が小さく灯る。
「ん……」
いやいやと首を振って手を払おうと試みて失敗した。
耳たぶから感じる熱がジワジワと全身に広がっていく。両腕にぞわっと鳥肌がたった。
(あれ……?)
光秀さんの琥珀の瞳から目を逸らせなくなった。
意地悪な笑みを浮かべている唇が近づいて…………
謙信「舞、準備は済んだのか?」
唐突にバルコニーから声が聞こえて、光秀さんから急いで距離をとった。
「キュッ!」
謙信「どうした、頓狂な声を出して…。イルカにでもなったつもりか?」
私の慌てっぷりに謙信様が目を瞬かせている。
ほんの一瞬漂ったピンクの空気には気づかれなかったようだ。
「いえ、なんでもないですっ。さ、現地までタクシーで移動しますよ!」
ロボットみたいにカクカクした動きで荷物を持っていると、光秀さんが吹き出した。
光秀「小さじ一杯だな」
「っ!」
(ふ、ふんだ!光秀さんの意地悪~~~~!!)
肩を怒らせ歩く私を、謙信様が不思議そうな顔で見ていた。