第14章 9月の夏休み!(謙信様&光秀さん)
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下手に説明するよりも実際目にした方がわかるだろうと、水族館の説明はほとんどせずに入館した。
水槽やガラスに慣れていない二人は、分厚いガラスの向こうに広がる海の世界に驚いていた。
こんなに多くの種類の魚が居たのかと、日本近海の魚も含め、熱帯魚や、深海魚、海外の淡水魚も見ていた。
「謙信様。何を見ているんですか?」
謙信様が熱心に見ているのはアクアリウムだ。
流木や岩が置かれ、水草の間をカラフルな熱帯魚が泳いでいる。
謙信「このように鮮やかな色の魚は初めて見る…」
「謙信様がお住いの海域には居ない魚ですからね……」
青や黄色と言った魚がスイスイと泳ぎまわり、謙信様の視線が忙しく動いていた。
(意外だな。サメとか、もっと大きい魚に興味を持ちそうだと思っていたけど…)
「ゆっくり見ていてください。近くに居ますから」
謙信「ああ」
謙信様に声をかけて、少し離れた場所に居た光秀さんに声をかけた。
「光秀さんは何を見ているんですか?」
光秀さんが答える前にそれは視界に入ってきた。
「わぁ、アザラシですね」
水槽と岩の狭い隙間にピッタリと嵌って、頭を上に、足は下にして目を瞑っている。
まるで立ったまま寝ているような格好に、胸がキューンときた。
(この体勢で寝てるの?可愛すぎるっ!)
光秀さんは身をかがめて、角度を変えて見ている。
呑気なアザラシと光秀さんの組み合わせが微笑ましい。
(ふふ、光秀さんがアザラシに興味を持つなんて…意外だな)
光秀さんは口元にあてていた片手を離し、やっと私の方を向いてくれた。
薄暗い館内で目が合った。
(暗くても格好良いな)
水槽の照明のせいで白銀の髪は淡い青になり、琥珀の瞳は色素を失くして見えた。
知っている人なのに、知らない人みたいだ。
光秀「可愛いな」
目を細められてハッと我に返った。
「ええ、可愛いですね……アザラシが」
(い、今のはアザラシがってことだよね)
心臓に悪い言い方をしないで欲しい。
光秀さんは小さく笑って、アザラシの顔をガラス越しにツンとつついた。
光秀「時折、廊下で転寝(うたたね)しているだろう。その時の舞に似ている」