第14章 9月の夏休み!(謙信様&光秀さん)
「両方とも電話と言って離れた場所の相手と話す機械…からくり?です。
こっちは単純に話すだけの役割で、さっきチェックインしたフロントに繋げてお話をしたんです。
わかりやすく言うなら…部屋から出ずに宿の女将さんに駕籠を呼ぶように頼んだ、というところでしょうか。
こっちの黒い板はスマートフォンと言って………」
スマートフォンの役割は多すぎて説明が長くなってしまった。
そうしているうちに下の階にエレベーターが到着した。
止まる時の揺れによろめくと、光秀さんの手がさっと伸びてきて支えてくれた。
「ありがとうございます」
光秀「掴まっていろ」
「そんな…危なくないですよ?」
光秀「そのセリフはよろめかずに立っていた人間が言えるものだな」
「う…」
そう言われてしまうと断れず、ホテルのエントランスまで一緒に歩いた。
タクシーの運転手さんが助手席の荷物を片付けながら声をかけてくれた。
運転手「ひとり助手席に座りますか?」
「じゃあ私が前に…」
謙信「駄目に決まっているだろう。明智、お前が前に乗れ。舞は俺の隣だ」
「でも……」
助手席は運転手さんに話しかけられるだろうし、戦国育ちの光秀さんにはハードルが高い。
光秀さんなら当たり障りなくこなすかもしれないけど、初めての車なんだからリラックスして乗って欲しい。
光秀「何を言っている。つれない謙信の隣に居ても舞がつまらない思いをするだけだ。謙信が前に行け」
「まあまあ。落ち着いてください、二人とも」
謙信様が前に乗ったら、運転手さんが凍り付きそうだ。
佐助君風に言えば『だめ、絶対』だ。
(謙信様につっかかるなんて、クールな光秀さんにしては珍しいな)
どんな時も淡々としている人が、今日は何かと謙信様とぶつかり合っている。
光秀さんにとって謙信様は敵だから、私を守ろうとしてくれているのかもしれない。