第14章 9月の夏休み!(謙信様&光秀さん)
謙信「首筋もそうだが、この辺りも普段見えぬところだ……」
謙信様がご自分の鎖骨付近を指さした。
ワンピースの襟ぐりから、私の鎖骨がはっきり見えている。
「このくらいは許容範囲じゃないですか?」
光秀「それでか?首周りだけじゃない。
お前が動いたり風が吹く度に身体の線がわかる」
そんなにピッタリしたデザインじゃないのにそう感じるのは、着物の時代で生まれ育ったからだろう。
職場の上司に言われたらセクハラ発言っぽいのに、現代服のなんたるかを知らない謙信様と光秀さんに言われると全然そんな風に感じない。
『意識してくれているのかな?』なんてときめいてしまう。
「ふふ、びっくりするでしょうけど慣れてください。
これがこちらの普通の格好ですから」
なんでもないことで戸惑っている二人に、笑いが止まらなかった。
光秀「しかし舞でも事も無げに嘘をつく時があるのだな?
『さつえい』や『けいさつ』の意味は分からなかったが、着物姿で居た理由を誤魔化していただろう?」
緩く風が吹いて、光秀さんの銀糸が揺れた。
さっきの店員さんじゃないけど、ずっと見ていたくなる格好良さだ。
光秀さんと謙信様だって、普段見えない腕が半袖から見えているし、ピッタリしたジーンズは足の線を浮き上がらせている。
目のやり場に困るのはこっちの方だ。
「必要に迫られれば…ね?」
謙信「つらつらと誤魔化す様は、どこにも不審な点が見られなかった。
舞の新たな面を見た気がする」
「私だってそれなりに処世術があるんですっ。
嘘をひとつもつかない真っ新(さら)な女なんかじゃないですよ?」
謙信様にニコリと笑いかけると、
謙信「ふっ、お前の嘘は人を傷つける嘘ではなかった。
新たな面と言っても、悪い面という意味ではないぞ?」
「わかってくださって、ありがとうございます。
あ!止まってください」
横断歩道の信号は青で、二人はそのまま進もうとしている。
慌てて服の裾を引っ張って引き止めると、左折してきたトラックが前を通り過ぎて行った。