第1章 日ノ本一の…(上杉謙信)(R-18)
兄「お前は自覚していないだろうが可憐な顔立ちをしている。女だと気づかれないうちに、なるべく早く迎えに行く」
「可憐……?いつからそのように口が上手くなったのですか?
私にそのような手を使っても意味はありませんよ」
兄「っ、本気で言っているのだ。鏡を見て、傍仕えの女達と比べてみろ。
滑らかな肌といい、意志の強い大きな目、紅を塗ったようなふっくらとした唇も…
「兄上」
口をきくだけで痛むと言っていたわりに、随分と口が達者だ。
「傍仕えの者達に失礼でしょう?それになんですか、妹を口説くなんて…気持ち悪いことおっしゃらないでください」
兄「気持ち悪い……」
兄上が絶句し、すぐに我に返った。
兄「いや、口説いているのではなくて、髪を切ったところで可愛らしいのは変わらないのだから注意しろと…」
「その辺はぜんっぜん気になさらないでくださいませ。
母上に比べれば淑やかさなど半分以下です。化粧もせず男勝りに剣術をたしなみ、政の勉強をして、自分で言うのもおかしな話ですが性格だって可愛らしいとは言えません」
兄「そんなことはない。現に俺が可愛らしいと言っているだろう?」
「家族だからでしょう?これ以上可愛いとか可憐だとか言わないで下さい。
私、そちらの道に興味はありませんので悪寒が致します」
さっきから背中を羽でくすぐられているかのようにゾクゾクする。
兄「っ、俺とてそちらの道など興味はない!まったくお前という女は可愛げのない…」
「ふふ、可愛げのない方が今回の任務は都合が良いでしょう?」
兄「……可愛げがないところも可愛い」
「だから気持ち悪いですからおやめください」
口をへの字にして抗議すると、兄上は喘ぐように息を吐いた。
兄「はぁ、お前のような武家の姫はどこにも居ないぞ」
「珍しくておもしろい妹をもって兄上は幸せでございましょう?」
兄「あー言えば、こう言う…。わかった。とにかく城では目立たぬようにな」
「勿論です。父上と母上にもそう言われておりますから」
そんなこんなで私は、弟の尚文として春日山城にあがることになった。