第14章 9月の夏休み!(謙信様&光秀さん)
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光秀さんが選んでくれた席は日が入らず、涼しい場所だった。
北向きの窓から時折風が入ってくる。
そんな涼しい席に着いたにも関わらず、座った途端にブワッと汗が噴き出して、手ぬぐいで拭っても追いつかなくなった。
右手に持った手ぬぐいで喉元を拭き、左手の甲でおでこの汗を拭いた。
そうしている間にも後頭部から汗がツツと流れ、苛々しながら首筋を拭う。
(あっちもこっちも汗が止まらない……。脱ぎたいっ!!)
帯を解きたい衝動に駆られた。
全部脱いで、内に籠った熱と湿気を解放したい。
光秀「暑そうだな…」
光秀さんが懐から扇子を取り出した。
パラっと優雅な所作で開くと、濃紺の色合いながらも涼を感じさせる薄い布が張られていた。
(絹かな?さりげなくお洒落だな……)
光秀さんが緩い動作で扇(あお)いでくれた。
そんな緩い風じゃなくて扇風機並みに強い風が欲しかったけど、扇子に焚き染められた光秀さんの香りを嗅いでいるうちに気持ちが和らいだ。
(いい香り~…。やっぱりこの香り欲しいなぁ)
以前聞いてみたら複数の香を組み合わせて焚いているらしい。
中にはちょっと値が張る香もあって諦めてしまったけど。
苛々した気持ちが治まると、次第に発汗はおさまっていった。
「ありがとうございます。やっと落ち着きました。
この気温の中、着物で過ごすことに慣れていなくて…」
光秀「気にするな。少し食べて身体の熱を下げろ。
このまま城まで歩けば倒れそうな顔をしている」
卓には香の物、カットされたナシが並んでいて、お茶とは別に水が入った湯呑が置かれていた。
「いただきます」
冷たいかなと期待して口に含んだ水は、予想していたけどぬるかった。
一個でも良いから氷が欲しい。
(ナシが美味しい……)
シャクッとした瑞々しい食感がありがたい。
ナシをあっという間に平らげ、香の物も頂いた。
浅漬けみたいだけど、傷むのを避けるためか塩気はきつめだ。
キュウリとナスに、少量の青じそとミョウガで風味がつけてある。
(美味しい…)
私がモソモソと食べている間、光秀さんはずっと扇子で扇いでくれた。