第14章 9月の夏休み!(謙信様&光秀さん)
「はぁ……」
頭から流れた汗が首筋を伝い落ちてきて、何度拭いてもキリがない。
風呂敷包みをもっている手の甲が、汗に濡れてキラキラ光っている。
(こうなったら早く帰って着物を脱ごう)
覚束(おぼつ)ない足取りで城に向かう。
(人払いして、襦袢の裾をめくりあげて涼んでやるんだ!)
行儀の悪い願望を持ちながら歩いていると、イヤミなくらい涼しげな人が歩いてきた。
光秀「茹で上がった顔をしているな、大丈夫か」
「ええ、なんとか。光秀さんは見回りですか?」
光秀さんの後ろには数人の部下の人達が見えた。
光秀「ああ。ひと回りして城に戻るところだ。
舞は使いに行くところか?」
光秀さんは暑さなんて感じていないように涼やかだ。
(汗ダラダラで恥ずかしいな…)
誤魔化すように手元の風呂敷包みを持ち直した。
「いえ、私も帰ることろです」
光秀「そうか。なら付き合え」
光秀さんは私の手から風呂敷包みを取って部下に手渡した。
光秀「悪いがこれを舞の部屋に届けてくれ。
見回りの報告は後ですると秀吉に伝えろ。概(おおむ)ね異常なし、とだけ言っておけば良い」
部下「はい」
部下の人達が城の方角へ歩いていくのを見送り、光秀さんは私に向き直った。
光秀「喉が渇いた。付き合え」
「はい。ありがとうございます」
お辞儀した拍子に、こめかみから汗が流れ落ちた。
喉が渇いたというのは方便で、きっと私を案じてくれたんだろう。
(光秀さんとお茶かぁ、嬉しいな)
胸を弾ませ、光秀さんの数歩後ろを静かについて行った。