第14章 9月の夏休み!(謙信様&光秀さん)
長月(9月)に入ってまもなく。
朝晩は涼しくなり、照りつける日差しの強さも真夏ほどではなくなった。
しかし先月よりはマシというだけで、日中は未だに暑い日が続いている。
「あっづい~~~~」
針子のお仕事で安土城下に出ていた私は、着物の下に大量の汗をかいていた。
おつかい先の商家を出たところで我慢できなくなって独り言を呟いた。
「何が暑いって、この着物が暑いよ……」
体感では30度前後。
関東育ちの私にしてみれば、このくらいの気温、本来はどうってことない。
本来は。
しかし身に着けているのは夏物の洋服ではなく着物だ。
襦袢も着物も夏物だからといって袖が短くなるわけでもなく、帯のあたりは不快な湿気がこもり、背中はジットリ濡れている。
履いている足袋もジメジメしていて、脱いだら爽快感を得られること間違いないだろう。
「半袖とか…キャミになりたい。
スカート履いて、素足にサンダルだったら涼しいだろうな」
勿論この時代にそんな格好をしている女性は居ない。
誰もが夏用の着物を着て、熱いからと袖を大きくまくったりはしないし、「あっづいよ~~」と文句を言ったりもしない。
暑くてもそれが当たり前と、汗を拭いて働いている。
天下統一を目指している武将達はお盆返上で働いているし、『夏休み』なんていう概念はない。
現代人の感覚でいくと『夏休みが欲しい』、それに尽きる。
まあ、現代に居た頃でさえゴールデンウィークやお盆休みは、親戚付き合いやらお出かけなんかでゆっくりできた試しなんかなかったけど、仕事から離れるという意味ではリフレッシュできていたように思える。
休まない皆に合わせて働き続けた結果、メリハリのない生活になってしまって、だらけている。
それもこれも自分の気持ちの在り方が皆より甘いから、という情けない理由だ。