第13章 姫がいなくなった(信長様)(後編)
(今すぐ俺のものだという印を…)
このような場所で手をつけるわけにはいかない。
ならばと恥じらう身体に唇を落とした。
唇に触れた柔らかい肌に強く吸いついた。
ジュッ!
「いっ!?」
強く吸った肌は、赤みを通り越し、青紫色の花を咲かせている。
舞がしかめっ面で首筋に手をやった。
「もしかして痕を付けたのですか?」
信長「そうだ。俺には敵が多いからな」
「敵っ!?」
『恋敵』という意味だったが舞は言葉通り『敵』だと勘違いしたらしくソワソワしている。
「お供の方達も居ませんし、帰りましょうか?」
信長「たわけ。せっかく遠乗りしてきたのだ。四半刻も過ぎておらんのに帰るわけがなかろう」
「でも……」
(わかるように言わねばならんか)
舞は周囲を見回し、不安そうにしている。
信長「敵とは恋敵という意味だ。貴様に好意を持っている男どもは大勢いる。
所有の花はその男どもに対しての牽制だ」
不安はなくなったようだったが舞の目が丸くなっている。
大方、この鈍い女は周りの好意に気付かずにいたのだろう。
信長「気のせいではない。俺の目は確かだ」
「え…え?は、はい……」
言いたい事を喉の奥に詰まらせたような顔をしている。
信長「納得のいかん顔をしているな」
「そ、それはもちろんです。言い寄られたこともないのに信じられません。
私よりも女中さん達の方が楚々としていますし、いつぞや安土城に滞在されていた大名の姫様なんて、凄く素敵でした。
そんな方達が信長様のことを憧れの眼差しで見ているので、私の方が心配です」
己の言葉に落ち込み、声が小さくなっていく。
そのうち『俺に相応しくない』と言い出しそうだ。