第13章 姫がいなくなった(信長様)(後編)
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半刻ほど走らせたところで馬を止めた。
信長「あそこに見えているのがそうだ。時期が良かったようだ」
大きく枝を伸ばした藤の古木に、色合いの深い紫の花が見事に咲いている。
「わあ、綺麗……。近くまで行っても良いですか?」
信長「待て。馬を繋ぐ」
手近な木に馬を繋ぎ、馬上の舞に両腕を伸ばした。
信長「秀吉のせいで貴様の履物を受け取らず来てしまった。
俺の腕に抱かれて花見をしろ」
「ずっと私を抱いて歩くつもりなんですか!?
私、こう言ってはなんですが重いですよ。BMIの数値が標準より…」
信長「つべこべ言わずに降りてこい」
天主から城門まで抱いて運んだが、たいした重みではない。
むしろその重みと温もりを早く感じたいと、胸が疼く。
「……後悔しないでくださいよ?本当に重いですからね?」
信長「早く来い。いつまで俺を待たせるつもりだ」
「初デートですし、相手は信長様ですし、『重い』なんて言われたら一生立ち直れない気が…わわっ!?」
いっこうに降りようとしない舞の腕を引っ張り、滑り落ちてきた身体を受け止めてやる。
驚き見開かれた丸い目がすぐ近くにある。
信長「行くぞ」
「いきなり引っ張るからびっくりしたじゃないですか!」
信長「俺を待たせるからだ」
「だって…」
信長「重くない」
「う……」
まだ何か言いたそうにしていた舞だったが、足を進めるごとに表情を輝かせた。
「うわぁ…。藤の木でここまで幹が太くなっているのを見るのは初めてです。
お花もいっぱい咲いていて、凄く綺麗……」
枝を捻じりながら伸ばした藤は、少し離れた場所に生えている若木と絡み合っている。
どこまでが古木の枝なのか、どれが若木の花なのか、誰にも分らないだろう。
(こうして花を愛でるのはいつぶりであろう)
感嘆の息をもらしている舞の顔をジッと眺めていると、それに気づいたのか顔が赤く色づいた。
信長「貴様の頬が花のように色づいたが、どうした」
「信長様がジッと見るからです!そんなに見ないでください」
舞は両手で顔を隠してしまった。