第13章 姫がいなくなった(信長様)(後編)
信長「光秀、舞と出かけてくる」
足音が聞こえなくなったのを確認して立ち上がった。
「え?秀吉さんが待ってろって……」
信長「あやつは俺には『待っていろ』とは言わなかった」
舞を横抱きにして立ち上がると、痺れた足を刺激したのか舞が呻いた。
光秀が襖を開けて誘導する。
光秀「それにしても舞と恋仲だったとは知りませんでした。
一体いつからですか?」
信長「つい先ほどだ」
光秀の琥珀の瞳が僅かに開かれた。
光秀「それはなおのこと秀吉の説教など聞いていられませんね」
信長「だろう?」
「……ふふ」
秀吉が向かった方向を避けて城を出ると、光秀の部下が馬を用意して待っていた。
信長「光秀、俺が馬に乗るまで舞を抱えていろ。こやつは足が痺れている」
光秀「くくっ、はい」
「すみません…」
光秀「あれだけ小言を言われ続ければ仕方ない。よく耐えたな」
「心配してくれたんだなぁって嬉しかったよ。光秀さんは相変わらずイケメンだね」
光秀「いけめんとはなんだ?」
「えーとね…」
信長「光秀、舞を寄こせ」
光秀「はい。舞、お館様を頼むぞ」
「はい、戦えませんが精いっぱいお守りします!」
光秀「……そういう意味じゃない」
仲睦まじく話している様は恋仲のようだ。
少々面白くない気分で舞を受け取り、前に乗せた。
秀吉「信長様、舞っ!」
「え、秀吉さんっ?」
肩で息をした秀吉が現れ、光秀に詰め寄った。
秀吉「光秀っ!西国からの使者なんて居ないじゃねえか!」
光秀「おや。それでは昨夜は狐に化かされたんだろうな」
今のうちにと馬の腹を蹴り、出発した。
秀吉「信長様っ!!どちらへっ……っ……っ!」
見る間に城門は遠ざかり、馬のひづめの音で秀吉の小言は掻き消えた。