第12章 姫と一緒に帰還したのは…
この人がわからない。
雨がザーと降り始め、あの時のように雷がすぐ傍に落ちた。
「きゃっ!!」
覚悟していたけど悲鳴が漏れた。
?「大丈夫だ。肝が据わっているのかと思えば、そうでもないのか」
腰に回った腕に力がこもり、私の上半身はこの人の身体にピタリとくっついている。
彼ではない男の人の感触に頭が混乱した。
?「お前がどこまで生き抜けるかやってみると良い。
俺が気付かないうちに消えて居なくなっているだろうがな」
「性格悪っ!生き抜いてあなたに再会できたら、お団子の1本や2本おごらせますからねっ」
(お団子って………随分安い女だわ)
自分の言葉に落ち込んでいると、頭の上で微かに笑う気配がした。
?「安い女だ」
「う…」
やっぱり言われてしまった。
ふわっ
「っ!」
?「っ」
突如足元の地面が消えて、身体が浮き上がった。
延々とエレベータに乗っているような浮遊感に気持ちが悪くなる。
?「しっかりしろ、降り立つ場所が安全な場所とは限らない。意識を無くすな」
「はい」
もはや縋り付くものは、このむかつく男の人しか居なくて、両腕を身体に回して抱き着いた。
?「お前の『大事な人』とやらを思い浮かべろ」
「え?」
?「強く願えばその者の近くに降り立つだろう」
外套がはためき、見下ろしてくる萌黄色と目があった。
冷たくもあり、何か迷うような……見る角度で色が変わる不思議な眼差し。
「あなたの名前は……」
身体に回した両腕を外され、両手だけで繋がる。
浮遊感がなくなり、徐々に落下しているような感覚がした。