第12章 姫と一緒に帰還したのは…
何故ワームホールの存在や、算出方法を知っているのか。
それも昨夜の服装を見れば現代に来たのは最近ではなく、現代に溶け込み、しばらく生活していたようにも思える。
たくさんの『何故?』が浮かんだけど、答えは1つも出てこなかった。
「…私は大事な人の元に帰りたいだけです」
突然姿を消してしまって、きっと凄く心配しているはずだ。
現代と戦国の世、どちらかを選ぶかじゃなくて大好きなあの人が居る場所に行きたいだけ。
(この人が言っていること正しければ、もうすぐここにワームホールが開くはず)
脳裏に浮かんだ愛しい人の姿に、胸が熱くなった。
?「愛のために動くとは愚かな」
小馬鹿にするように鼻で笑い、その人の瞳から私への興味の色がなくなった。
「あなたにとって愛が儚いものだとしても、私が彼を思う気持ちは儚くなんかない。
あなたがそうだと思っている物事を、私に押し付けないで」
?「ふん、そうして愛に走り、消えていった者達を知っているからな。
お前のような甘い考えを持った人間はこちらの世に居た方が幸せだろう」
「ひ、人の幸せをなんであなたに決められないといけないんですか?」
蔑むように見下ろされた。
?「今のままでは確実にお前は死ぬからだ。
それも愛する男を道連れにする可能性がある。それがお前の幸せか?」
「何を言って……」
確かに私は戦う力はないけれど、彼の傍に居たいと努力してきたし、これからもするつもりだ。命が羽のように軽い戦国の世で、共に生きていくために、だ。
それを知りもしないで、この人にとやかく言われたくない。
「私は死ぬつもりもないし、彼を殺すつもりもありませんっ!
必ずあの世で生き抜いてみせるっ」
大声で言いきった直後、頭上で雷が鳴り、二人同時に空を見上げた。
黒い雲がこの周辺だけにかかって渦を巻き、ぽつぽつと降りだした雨が額や頬に当たった。
バサッ
腰をひき寄せられ、気が付けば外套の内側に居た。
(え!?)
初めて嗅ぐ香りと温もりに、身を固くする。
線の細い男の人だと思っていたけど、引き寄せる腕は力強かった。
「何するんですかっ!」
?「数秒でワームホールが開く。掴まっていろ」
(現代に居た方が幸せだろうとかなんとか言っておいて掴まってろって、何よ?!)