第12章 姫と一緒に帰還したのは…
?「聞こえなかったのか。去れと言っている」
不遜な物言いにむっとした。でも強引に命じる言い方はどこか懐かしい。
「私は行きたい場所があってここに居るんです」
?「おかしなことを言う女だ。行きたい場所があるなら、その足を動かして向かえば良いだろう」
「この場所が……」
『この場所があの時代への入口になるかもしれない』なんて、得体の知れない人に手の内を明かすほど馬鹿じゃない。
?「この場所がなんだ?」
男の白い頬がピクリと動き、興味深いといったふうに細められた。
?「お前は今からここで何が起こるかわかっているということか」
低められた声に威圧を感じ、身体がすくんだ。
よく見れば男の目の下には不健康そうにクマがあり、不思議な色合いの目に睨まれると迫力があった。
「……あなたは誰?」
春の肌寒い風が吹き、男の白い外套がヒラリ動いた。
「!」
そこから覗いた刀に思わず後ずさった。
最近まで見慣れていた刀だけど、この時の流れでは違法なもの。
(なんで……ワームホールを知っているようだけど、現代人じゃない!?)
身に纏う雰囲気や口調が、まるで『あの時代』の人間のようだった。
その人は神経質そうに辺りを見回し、1歩こちらに近づいた。
?「行き先も知っているのか?」
「あ、あなた何者なの?」
お互い、問いに答えるつもりはないようだ。
?「答えないか…だがこの質問には答えろ。
お前はこの平和な世ではなく、あちらの世を選ぼうとしているのか?」
「っ」
(この人がワームホールのことを知っているのは間違いない!)
しかも『今からここで起こること』と言っていたからには発生時刻の場所まで把握しているということだ。
(佐助君だけじゃなく、この人もワームホールの計算ができるんだ…)
雰囲気もそうだけど、私の質問に答えず、自分の欲しい答えを引き出そうとするやり方は、戦国の世で為される行為だ。
(この人は戦国時代の人…)