第12章 姫と一緒に帰還したのは…
「今日も開かなかったな」
腕時計の針は夜の11時を指している。
私は本能寺跡の石碑の前で肩を落とした。
背中に背負っているリュックは荷物がいっぱいで重たい。でも今日こそ『彼』に会えるかもしれないとお洒落をしてきた。
ここ1か月程ほど、こんな感じで一日中石碑の前に待機していた。
「やっぱり佐助君が居ないとだめなのかな。
闇雲にここに居ても無駄に時間を費やしているのかも……」
目頭が熱くなり、ズズ…と鼻をすすった。
戦国の世で眠りについたはずなのに、目が覚めたら現代の自分の部屋で寝ていて、ご丁寧に布団までかけていたからびっくりだ。
混乱した頭で、それでも戦国時代に帰りたいと1番に思った。
大好きなあの人に会いたいと、ただそれだけの理由だ。
この時代には居ないあの人は、私が一生かけてでも愛したい…ただ一人の人だった。
帰るあてもなく数日間は落ち込んでいたけれど、できることはしようと決めた。
ワームホールが発生しそうな場所を本能寺に定めて、1日中張りこんだ。
皆にそれぞれお土産を買ってリュックに詰めているうちに、再会できるような気がした。
日が落ちてしばらくが経ち、辺りは暗く、一定間隔で設置されている街灯が青白く光っている。
(今日はもうこのへんで帰ろうかな。いや…もう少し居よう)
毎日、朝から晩まで穴が開くほど眺めた石碑は『本能寺跡』という文字や石の様相の細かなところまで覚えてしまった。
石碑の下に生えているコケや、散在している石ころの形まで把握している。
先祖の墓石でさえこんなに眺めたことはなかったのにと、ため息が出た。
?「そこに居ると思いも寄らない場所に招かれるぞ。早々に立ち去るのが身のためだ」
(思いも寄らない場所に招かれるって…ワームホールのこと?)
驚いて振り返ると一人の男性が立っていた。
(この人、昨日もここで会ったよね)
昨夜ここを立ち去る際にすれ違い『イケメンだな…』と思った記憶がある。
昨夜はスーツ姿だったと記憶しているけれど今夜は着物を着ている。
派手な色ではないけれど使われている布は上質で、気品のある顔立ちを引き立てている。