第10章 姫がいなくなった(幸村)
こうして無事に舞が戻ってきた城は以前のように活気づき賑やかになった。
光秀は安土に帰り、あいつを思い起こす紫の花が次々と花開いているのを舞は嬉しそうに見ていた。
光秀のことを知ったせいか以前よりは面白くない気分も減った気がする。
「また光秀さんに会いたいなぁ。意地悪されると『キー!』って悔しくなるんだけど、それが良いんだよね。クセになるっていうか…」
馬鹿なやつと言ってやりたいが、その気持ちが少しわかる。
「幸村には安土の皆をもっと知って欲しいな」
そう言って舞がのほほんと笑った翌日。
安土からまた一人の武将がやって来た。
信長「邪魔をするぞ」
幸村「邪魔だ、帰れっ!」
「ち、ちょっと幸村!」
幸村「俺は光秀の次にこいつが大っ嫌いだ!」
「し、しーーー!!」
信長「織田所縁の姫が健やかに暮らしているか見に来てやったぞ。舞、まずはお前の部屋に案内しろ」
舞の部屋=俺の部屋だ。
幸村「駄目だ、絶対!」
「幸村ったら、お城に来て良いって言ったじゃない!」
幸村「っ」
こうして強制的に安土の武将と顔を合わせるようになった俺は、嫌でも人となりを知ることになる。
政宗は顔を合わせるなりに刀をつきつけてくるし、安土の連中を相手する度に頭痛がした。
そんな俺の隣で舞は、
「皆が幸村と仲良くしてくれて嬉しいなぁ」
と笑っていた。
舞が勝手に姿を消したのはこの時1回限りだった。
落ち込む暇もなく光秀に翻弄され、舞の話には重要な情報が含まれていると気づかされ、この時を境に生返事はしなくなった。
安土の連中との結びつきも家族並みだと知ったのもこの時だった。
幸村「お前のこと大事にする。だからずっと俺の横にいろよ」
「うん、私も幸村のこと大事にする」
離ればなれになって初めて、思っていた以上に愛してくれていたのだと知った。
幸村「生まれ育った時代に戻れなくても、安土と離れても、寂しいなんて感じさせなくしてやる。
俺がお前の家族の分も、安土の連中の分も愛してやる。一生をかけてな」
「ありがとう、幸村…」
照れくさそうな笑顔を見ながら、俺は胸の中で誓った。
(舞を二度と離さない)
END