第10章 姫がいなくなった(幸村)
(あの時か……気づかなかった)
まさか安土の連中と定期的に会っていたとは。
幸村「今まで明智以外で誰と会ったんだよ」
なんとなく面白くなくて声が硬くなる。
「ん?トップバッターは秀吉さんだった。次は家康でしょ。
次は慶次で、一番最近が光秀さんだよ。
慶次がね、幸村と槍の勝負をしたいって言ってたよ。今度会ってみる?」
幸村「あの無駄に声がでっけー男かよ。遠慮しとく…」
自分の領地に織田の武将が入ってきたなんて情報は1つもなかった。
おそらく細心の注意を払って舞に会いに来ていたんだろう。
腕の中にいる舞の顔を見ると『なぁに?』と聞いてくる。
呑気な顔に怒る気力もなくなる。
「怒ってる…よね。ごめんね。
あのね、深い意味はないんだけど、私は幸村の奥さんじゃなくて恋仲でこの城に居るでしょう?
幸村とうまくいかなくなったらすぐに追い出されちゃう身だから、皆心配だったみたいで…」
幸村「お前と安土の連中が呆れる程仲が良いっていうのはわかったよ。
こそこそ会うのも面倒だろう。これからは城に会いに来いって言伝をしとけ」
すぐにでも舞を娶れば安土の連中も安心するのだろうが、俺はもう少しの間、恋仲で居たい。
城主の奥方となれば舞は忙しい身になり、今のようにのんびりと過ごせなくなる。
逢瀬にでかけ、遠出もして、そのうち温泉にも連れていってやりたい。
幸村「夫婦になる前にやりたいことが山ほどあんだよ。
だからもう少しだけ安土の連中に心配させておけ」
「えへへ、うん!幸村、ありがとう!大好きだよ」