第1章 日ノ本一の…(上杉謙信)(R-18)
「ちょ、ひゃっ!?」
鼻先を切っ先がかすめた。
謙信「ふんっ、避けてばかりでは何(いず)れ姫鶴の餌食になるぞ?」
「おやめくださいっ、わっ!?」
そうしているうちに徐々に夜明けの時間が近づいてきた。
東の空が橙(だいだい)に染まり、美しい謙信様の姿を露わにしていく。
褪せた金髪や白い肌、真っすぐな眼差しが朝日を浴びて輝く。
愛刀の姫鶴は嬉々として宙を切っている。
着ている物が空気をはらんで舞うところまで、全て完成された美術品のようだ。
今まで出会った人の中で一番美しく、素敵だった。
謙信「余裕があるようだな?ならばもう少し早めても良さそうだ」
刀を振る速度がぐっと増した。速度だけではなく力も加わっているだろう。
受けたら地に叩き伏せられそうだ。
(なんだかんだと手加減してくださっている……)
謙信「いい加減、刀を抜かないと死ぬぞ?」
「っ?死ぬなと言ってくださったのに、私を殺すのですか」
謙信「俺に殺されるなら本望だろう?」
「う………」
図星だけど、なんだか悔しくて『はい』とは言いたくない。
「…今は死にたくないと思います…」
若干目が据わってしまったけど、謙信様は咎めることなく愉しげに刀を振り回す。
謙信「ならば刀を抜け」
この日から早朝の裏庭は私と謙信様の鍛錬場と化し、私は自室で寝ている時にまで斬りかかられるという恐ろしい日々を送ることになった。