第10章 姫がいなくなった(幸村)
幸村「起きろって、風邪ひくぞ」
「ん~?抱きしめて…あっためてくれたって良いじゃない……むにゃ…」
光秀が目を瞠(みは)り、吹き出した。
光秀「おやおや、仲が良いことだ」
幸村「ばっ!?馬鹿、何寝ぼけてるんだ、起きろって」
寒い夜は抱きしめてやっていたのは間違いないが、こんな形で光秀に暴露されるとは思わなかった。
「ん~……え、ここ外じゃんっ!?」
やっと目をあけてくれた舞が驚いている。
一番近くに居る俺と目を合わせ、次に村正、光秀と視線を移動し、最後に二の丸を見上げて涙ぐんだ。
「か、帰ってこれたんだ。幸村~~~」
勢いよく抱きつかれ、舞からは嗅いだことのない良い匂いがした。
花のようでもあり爽やかな緑のようでもある、不思議な香りだった。
この時代にはない、500年後の世のものだろう。
背中に腕を回すと、手に触れる生地の触り心地もフワフワとして、村正の毛を短くしたような柔らさだ。
幸村「なんで……どうやって帰ってきたんだ。佐助がワームホールが開くのは2年後って言ってたんだぞ」
「わかんないけど、まだ寝ている間にワームホールにすいこまれちゃったみたい」
幸村「その荷物は?」
「あ、これはお土産。もしかしたらまた寝ている時に戦国時代に来られるかもしれないって思って、毎晩抱きしめて寝てたの」
幸村「お土産って、お前……」
こっちは心配でたまらなかったのに、お土産を買う余裕があったのかこいつは!
ズキズキと頭が痛むのもあって、文句を言ってやりたいがそうもいかない。
「?いつもなら怒ってくるところなのにどうしたの?」
幸村「……(頭いってー)」
光秀「こいつは昨夜酒を飲み過ぎて二日酔いを起こしている」
幸村「ってめえ、勝手にばらすんじゃねえよ。それに俺は二日酔いなんかじゃない」
「へぇ…そう言われるとお酒臭い…。
私が好きな幸村はこんな匂いじゃないんだけどな。もしかしてニセモノ幸村?」
幸村「本物だっ」
光秀「酒臭いやつは放っておけ。わかっていると思うがここは上田城。お前が姿を消してひと月ほど経っていて、今は早朝だ」
「なんで光秀さんが上田城に……あ!へへ、光秀さん、約束を守ってくれたんだね。ありがとう」
舞が可愛らしい顔でふにゃと笑った。