第10章 姫がいなくなった(幸村)
幸村「もう行けよ。俺の心配はいらねーって……うわ、どうした、村正!」
背後から体当たりされ、不覚にも光秀の方によろめいてしまった。
グワンと痛む頭を押さえて村正に向き直ると、口に何か咥えていた。
幸村「お前、いらないもん咥えるなよ」
桃色や薄い緑、水色、白が縞模様になったもこもことした細長い布。
横にのばすとビヨンと伸びて筒状だ。
幸村「この布……触ったことがない感触だな。色合いも……」
村正「わふっ」
村正が俺の身体をグイグイ押してくる。
幸村「おい、ちょっと待てよ。今、見送りしてるだろうが」
光秀「…ちょっとそれを見せてみろ」
いつの間にか馬から降りた光秀が布切れを手にとった。
触り心地や伸縮性を確かめ、顔を近づけて…目元を鋭くさせた。
光秀「村正、これが落ちていた場所に案内しろ」
幸村「お、おいっ」
光秀は家臣達に待機命令を出し、さっさと歩いていく。村正と光秀に遅れをとり、俺は慌てて追いかけた。
村正は城をぐるりとまわりこみ、二の丸が見える所まで来ると走り出した。
刈り込まれた草の上に、さっきの布と同じ色合いの着物を来た人間が横たわっている。
幸村「まさか…」
先に光秀が到着し、片膝をついて様子を見ている。
走り寄ると、それは舞だった。
幸村「舞がなんでこんなとこに?」
光秀は呼吸の有無を調べ、寝ているだけだと言った。
幸村「なんつー格好で寝てるんだよ」
上は袖が長いが、下は裾が短く太ももが露わになっている。膝上から足の甲までは布で覆われているが、村正に片足取られたせいで右足は露わになっていた。
1番奇妙なのは、腕に荷物入れと思わしき袋を抱いていることだった。
(あっちの世では寝る時に荷物を抱えて寝る習慣があるのか)
幸村「……起こしてもいいと思うか?」
光秀「風邪をひかせたくなければな」
恐る恐る細い肩を揺らした。
幸村「おい、起きろよ」
「ん~~、幸村、もう少しぃ」
呑気に寝言を言って荷物を抱きしめている。
さっきより強く揺する。