第10章 姫がいなくなった(幸村)
(俺…本当に舞の恋仲でいいのか?)
考えを汲んでやれないような、つまらねー男と一緒に居て、あいつは幸せなのか?
今頃500年後の世で『元の世界に戻れて清々したっ』って言っているかもしれない。
幸村「はぁ」
光秀の存在を放ってため息をついた。
こんな俺じゃ、もう駄目かもしれない。2年後に迎えに行っても追い返されるのが落ちだ。
光秀「おい。弱くはないが、強くないのだろう?酒はそのへんにしておけ」
ひっきりなしに飲んでいた酒を取り上げられた。
幸村「あ?まだ全然平気だっつーの」
飲まなきゃやってられない。
取り上げられた盃を恨めしく見ていると、光秀は仕方ないというふうに息を吐いた。
光秀「『幸村ってさぁ』」
幸村「……なんで急に馴れ馴れしいんだよ」
こいつに馴れ馴れしく『幸村ってさぁ』なんて言われると悪寒が走る。
光秀「いいから聞け。『幸村ってさぁ、すっごいカッコイイんだよね』」
幸村「は?」
俺を無視して光秀は続けた。
光秀「『村正と一緒になって転げまわって遊んでいる時は無邪気で可愛い顔なんだけどね、仕事している時とか、甲冑を着て鍛錬に出かけていく時はきりっとして凛々しいの!
信玄様や謙信様と一緒に居る時はツッコミ専門って感じだけど、しっかり物事考えているし、人のこと思いやって優しい人なんだよ』」
幸村「おい、それって……」
誰の言葉かなんて、聞かなくてもわかった。
光秀「『幸村が指示を出す時の張り上げた声がめちゃくちゃ格好良くて、耳が蕩けちゃいそうなんだよ。女の人に慣れていなくて、私の扱いに困った顔をするのも実は可愛くて好きだったりするの♪
この間なんかね、疲れたなぁって思ってたらいつの間にか甘味を買ってきてくれて、持ってきてくれたの!優しいでしょ♪
私なんかが幸村の恋人で良いのかなぁ。幸村みたいに素敵な人、他の人に盗られたらどうしよう』」
幸村「………‥」
顔が熱くなって言葉が出てこなかった。舞が光秀に言った内容は、人となりを知ってもらう、というよりもただの惚気だ。
(あの馬鹿っ!)
悪態をついても、心の中は嬉しくてたまらなかった。
光秀「……だそうだ。随分と愛されているようだな?」
幸村「……」
(どう返事をすればいいんだよ!)