第10章 姫がいなくなった(幸村)
『光秀さんはまつ毛が長くて、瞬きしたら音がするんじゃないかってくらいだよ』
(……本当だ…)
目を伏せたせいで髪色と同じ銀色のまつ毛がより長く見えた。
本当に何から何まで俺にはないものを持っている。
こいつは舞と顔を合わせたからってギャーギャー喧嘩腰で話をすることはないだろうし、そうならないようゆっくりと諭して話を聞いてやるんだろう。
面白くなくて酒を煽ると、腹のあたりが熱くなってきた。
幸村「『光秀さんってね…』って、ことあるごとに言ってたぞ。
指や髪色が綺麗だとか、背が高いとか、まつ毛が長いとか」
酔いにまかせて全部吐き出した。
(恋仲の目の前で他の男を褒めんなっ!)
光秀「味がわからない、酒に酔わないと?」
幸村「あー、そうだよ!」
光秀は何がおかしいのか肩を震わせて笑っている。
光秀「では時々食事にちまきや、丼ものが出てきたのもそのせいか?城で出される食事にしては珍しいと思っていたが」
幸村「一気に色んなもんを効率よく食べるのが良いんだろ?舞が言ってたんだよ」
覚えるつもりはなかったけど、舞が何度も言っていたから覚えていた。
この調子で唐辛子の件もちゃんと思い出していれば回避できたのにと悔やまれる。
光秀「なるほどな。#NAME1#らしい」
俺よりも舞をわかっているような態度が気に食わない。
幸村「何がだよ」
光秀「知っているか?あいつは安土の連中と、幸村に仲良くなって欲しいと思っていた」
幸村「……は?そんなこと一言も言ってなかったぞ」
光秀の琥珀の瞳がほんのわずか…温かみを帯びた。