第10章 姫がいなくなった(幸村)
だから佐助も一緒に迎えに行くことになっている。
たとえ行き違いになっても佐助が居れば次のワームホールを待って、こっちに帰ってくることだって可能だから。
ワームホールを待っている間、俺が生活に困らないよう世話してくれると言っていた。
光秀「……俺が迎えに行ってやる」
幸村「なんでだよ」
恋仲でもなんでもない男がなんで舞を迎えに行く必要があるんだ。
(まさかこいつは舞のこと……)
光秀「まずは行き違いになることを避けるためだ。
舞が戻ってくるとしたらお前のためだ。それなのに行き違いになったら悲しむだろう?
それに次というが、その次がないという場合もある。佐助は次の次、その次まで予測できるのか?」
勘ぐる俺に、恋情など皆無といった表情で光秀は淡々と説いてくる。
幸村「いや…それはできないって言っていた。せいぜい2、3年先までしか予測できないらしい」
光秀「ならば猶更幸村はここで待っているべきだ。下手をすれば帰ってこられなくなるぞ?」
幸村「それはお前だって同じことじゃねえか」
光秀「そうだな」
幸村「?」
またよくわからない顔をしていたが、ふと見れば光秀の口の端が吊り上がった。
(待てよ…?)
もし2年後のワームホールに舞が飛び込まなかったら?それで次がなかったら?
(迎えにいったやつが舞と500年先の世で暮らすことになるじゃねーか!)
舞は佐助みたいにワームホールの観測ができない。
だから2年後、ワームホールに飛び込まない確率の方が断然高い。
(くそっ、このキツネ男…っ)
真面目な顔で諭しておきながら、舞を奪う気満々だ。
幸村「ぜってー、俺が行くからなっ!!」
光秀「ふっ、気が付いたか。遠慮しなくても良かったんだぞ」
噛みつくように言うと、光秀は小さく肩を震わせた。
人が真面目に答えたのに、途中から揶揄われていた。
幸村「お前相手に遠慮なんてしてねぇよ」
光秀「まだ二年ある。せいぜい城を預ける者に引き継いでおくんだな」
憎たらしい男は笑って城へ戻っていった。
幸村「あいつ……なんなんだよっ!早く安土に帰れっ!」
光秀が立っていた場所に塩をまきたくなった。