第10章 姫がいなくなった(幸村)
『光秀さんって背が高いんだよね~。あの上から見下ろされる感が…はぁ……』
(『はぁ』ってなんだよ!)
過去の舞に悪態をつきたくなった。
そう、あまりにも舞がこいつを褒めそやすから、俺はすっかりこいつに劣等感を持っていた。
舞がうっとりと語る光秀は、どれもこれも俺が持っていないものを……持っていた。
幸村『そんなに光秀が良ければ安土に帰ればいいだろうが!』
『え?光秀さんはそんなんじゃないよ。家族みたいな人だから』
幸村『家族のことを語っている時にウットリする人間がどこに居るんだよ』
『ウットリ!?そ、そんなつもりないよ。ごめんね?幸村』
こいつ(光秀)のことで喧嘩になったのは舞が居なくなる前日の話だ。
次の日に謝ろうとしたが急な用事で顔を合わせることができなくて、そのまま舞は消えてしまった。
幸村「んで?お前の家臣の体調はどうなったんだよ」
こうなったら一日でも早く城から追い出したい。
光秀が居る限り、ろくでもないことを思い出してうじうじしそうだ。
光秀「起きられるようになったがまだ長旅をするまでは回復していない。
悪いがもう少しかかりそうだ」
幸村「へぇ…」
用意していたエサを村正にやり、櫛をしまう。
光秀「舞は……」
幸村「なんだよ」
こいつの口から舞の名前を聞きたくない。
つまらない意地が俺の声色を硬くした。
光秀「帰ってくるあてがあるのか」
幸村「佐助の調べでは2年後にワームホールが開くっていうから、その時に迎えに行くつもりだ」
(あいつが迎えに来て欲しいって思ってくれているか疑問だけどな)
話は聞かない。勝手にヤキモチを妬く。
そんな男に迎えに来て欲しいだろうか。
光秀「そのワームホールとやらはこちらで開くのと同時に500年後でも同時発生するものなのか?もしそうならば行き違いになる可能性もあるだろう。
それともワームホールの入口はこちらで、出口が500年後なのか?」
幸村「それは……わからねぇよ。こっちとあっちで、同時に人が行き来した事例はないそうだからな」
一方通行なのか対面通行なのか、そこまでは佐助もわからないらしい。