第10章 姫がいなくなった(幸村)
幸村「こんなもんで良いか?すっきりしただろ、村正」
村正「わふ」
幸村「まだ完全に生え変わってないから、またそのうち櫛かけてやるからな」
ぼさぼさしていた毛がすっきりして、撫で心地が良くなった。
置いた櫛をしまうより先に、すっとそれを取り上げられた。
幸村「…おい、なんのつもりだ」
光秀「この辺にまだ冬毛が残っている」
幸村「あ?」
光秀はしゃがみこんだ。どうやら村正の足の付け根の裏に冬毛が残っているらしい。
白く長い指が櫛を掴み、丁寧に櫛けずっている。少し頭を傾けた拍子に銀糸の髪が揺れた。
幸村「……」
『光秀さんってね~、なんていうかすごく繊細なところもあって、細かい所に気付いてくれるんだよ。
それに、指が綺麗だし、髪色も色素が薄くてさっらさらで綺麗なの』
(なんでさっきから舞の言ってたことばかり思い出すんだ…)
舞は時々安土のやつらを懐かしんでいた。
普段は遠慮して口にしなかったけど、酒に酔うと必ず安土の誰かのことを話していた。
なかでも話題にあがる頻度が高かったのがこいつ(光秀)だ。
光秀「綺麗になった。良かったな?」
村正を撫でている時は胡散臭い顔が薄らいでいて、村正も満更でもない顔をしている。
幸村「……礼を」
光秀「礼の言葉はいらん。勝手にやったことだ」
急に冷ややかな態度に戻った。
村正を撫でている時は少しはマシな顔をしていたのに。
(ったく、なんなんだ、こいつはっ!!)
しゃがんでいた光秀が立ち上がると、明らかに俺よりも背が高い。
微妙に見おろされてムカついた。