第10章 姫がいなくなった(幸村)
光秀「……」
感情というものを感じない顔、瞳。
こいつは今、腹の底で何を考えているんだろう。
佐助も無表情だが、こいつの場合は意図的に表情を無にしているから質が悪い。
瞬きをする以外は微動だにせず、人形のようだ。
(こういう奴が1番苦手だ)
伊達政宗や豊臣秀吉のように表情豊かで、さっぱりした奴の方が話しやすい。
光秀「捜索を打ち切っているそうだな。何故だ」
噂を耳にしたと言っていたが、下調べは既に済んでいるようだ。
舞の事情は安土の連中も知っている。
今更隠す必要はない。
幸村「ワームホールが開いたんだ」
光秀「……なるほどな。500年後の世に帰ったのは舞の意思か?」
幸村「わからないが、舞は寝ているうちにワームホールに取り込まれた可能性がある」
光秀「ほう…わからない、だと?」
光秀は笑う時じゃねぇのに、口元に笑みを浮かべた。
光秀「はっきり否定しないのは、舞があちらの世に帰りたいと思わせるような要素があったということか」
ほらきた。
些細な言葉も逃さないと追及してくる。
だが今回はその指摘がグサリと胸に刺さった。
幸村「ねぇよ!だけどそれは俺から見ればの話だ。
人の心なんてわからないだろ?あいつだって……元の時代にたくさん大事なものを置いてきたんだ。家族や友人、生きがい、便利な生活も、全部だ。
俺の前では平気そうにしていても、心の中のどこかで『帰りたい』と思っていても不思議じゃないだろうが」
光秀「舞は全てを捨て、この世でお前だけが拠り所だったはず。
お前は……それに見合った行いをしていたのか」
幸村「っ、していた……つもりだ」