第1章 日ノ本一の…(上杉謙信)(R-18)
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「謙信様…今日もいらっしゃったのですか」
謙信「来てはいけないのか?ここは俺の庭だが…」
「そうですね…」
謙信様が来てはいけない場所が春日山にあるわけがない。
たとえここが寂れた裏庭であろうと。
怪我をした梅を見つけた次の日から、謙信様が毎朝裏庭にやってくるようになった。
梅は謙信様が直々に名前をお付けになった大事なうさぎだそうで、お礼の代わりに刀の稽古をつけてやると言われた。
ありがたいお話なのだけど、女だと見破られないか神経を尖らせなくてはならず、鍛錬に身が入らない。
(ひとりでやった方が効率が良いんだけど…)
ありがたいけど困るというか、迷惑というか……。
しかし謙信様は稽古をつけるとは言った
ものの、私が鍛錬している様子を観察するだけだ。
静かな眼差しがどこを見ているのか、その思考が何を思っているのか、想像もつかない。
謙信「お前は……」
静寂が広がる裏庭に低い声が一声発せられただけで背筋がピシリと伸びた。
「は、はいっ、なんでしょうか」
顔を向ける首の動きが酷く鈍い。
ギシギシと、まるでからくり人形のような動きをしてしまった。
謙信「人を斬ったことがないな」
「………?そうですね…」
これでも普段はお屋敷に引きこもっている姫だ。
父上や兄上が戦に出かけていくのを見守るのがお役目。
そんな人間が人を斬ったことがあるわけがない。
(その経験があるかないかで善し悪しが決まるのかな…)
なんと答えるのが正解なのかわからなかった。
謙信「責めているわけではない。小姓を目指すのなら枷になるかもしれぬが、お前は代理だ。そのままで良い」
じっとこちらを見据える瞳に居心地が悪い。
二色の瞳は綺麗すぎて、秘密も全部見破られそうな気がするから。
謙信「何故だろうな…お前を見ていると、血なまぐさい場はそぐわない。
人を斬るなど…させたくない」
「それでは兄上の代わりになりません。謙信様のためならば私もためらいなく人を斬るでしょう」
私の本質を見破られそうになり、咄嗟に視線を伏せた。