第1章 日ノ本一の…(上杉謙信)(R-18)
「承知いたしました」
兼続「尚文、頼んだぞ。俺は朝から用事が立て込んでいて忙しい。
謙信様の返事を必ず俺の元に持ってきてくれ」
「わかりました」
兼続様は去っていき、謙信様と私が廊下に残された。
仕事中であっても謙信様と二人きりになったことはなくて、妙に緊張する。
少しでも目線をあげれば夜着姿の謙信様だ。
わずかに寝乱れて、鍛えられた胸の筋肉が見えている。
(殿方のこんな姿を………)
頬に熱が集まりそうになるのを必死に回避する。
(うさぎが1羽、うさぎが2匹、うさぎが…)
なんとか心落ち着けて一礼する。
「それでは着替えたら謙信様のお部屋に参ります」
こそこそと退散しようとしたところ、ひきとめられた。
謙信「待て。あのうさぎのことだが…礼を言う」
(………え?)
思わず不躾に顔を見てしまった。
小姓の見習い程度の者に、城主が礼を言うなんてありえない。
冷めた表情が今は微かに…柔らかい気がする。
「勿体ないお言葉……こちらこそありがとうございます」
動揺しすぎて無難な返事しかできなくて、速やかにその場を去った。
自室に戻る間、顔が熱くて仕方がなかった。
(うそ、うそっ!?びっくりした)
梅と呼ばれたうさぎは謙信様が大事にしているうさぎなのだろうか…。
表情が少し和らいで見えたのは気のせいだろうか…。
何故かわからないけれど、心臓がどきどきと五月蠅かった。