第9章 姫がいなくなった(家康)
佐和山城の者や、俺の家臣達は、
『舞様には二人の旦那様がいらっしゃるようですね』
と口々に言い、最高に不愉快だった。
けど……
三成「どうしましたか、家康様?」
ぽへっとした顔で三成が笑う。
こいつが居なかったら俺の心はとことん凍り付き、舞と再会を果たす前に早まった行動をしていたかもしれない。
無神経に怒らせてくれたおかげで、舞への大切な想いを凍らせずに済んだ。
体調や気分の悪い舞が気兼ねなく城で過ごせたのも、三成のおかげだ。
家康「別に…。世話になった」
三成「いいえ。私の方こそ、家康様と舞様のお役に立てて光栄です。ずっとここにいて欲しいくらいです」
家康「遠慮しとく」
三成「私に遠慮などしないでください」
家康「いや、遠慮なんてしてないから」
三成「それならいつでも遊びにきてくださいね」
家康「はぁ…」
げんなりして息を吐くと、舞がフフと笑った。
「じゃあ、皆も待っているし出発しよう?」
家康「っ!前のめりにならないで、ちゃんと寄っかかって」
「はいはい、心配性だなぁ」
家康「あんたが無防備すぎなんでしょ」
この城を訪れた時は春真っ盛りだったが、今は夏の強い日差しが降り注いでいる。
「見て、家康。夏の曇ってモクモクして綿あめみたいだね」
青い空を見上げれば綿菓子のような雲が高く浮かんでいる。
一雨降らせるかもしれない雲だが、今のところは遠い。
はしゃぐ舞をしっかり抱いて出発した。