第9章 姫がいなくなった(家康)
これで一件落着かと抱きしめ返していると、舞がよくわからない言葉を発した。
「ぐす…家康の馬鹿。
最初はツンツンしてたくせに、いきなりデレるし。
いっぱい私のこと好きだって言ってくれるし、も~~~」
家康「途中、意味がわかんなかったんだけど」
ツンツンはなんとなく察したけど、デレるってなんだ?
怒ってるのか喜んでいるのかわからない。
舞は身体を離し、満面の笑みを浮かべた。
「家康の馬鹿……。大好き」
家康「……」
政宗さんや秀吉さんが『女心は複雑だぞ』と言っていたけど、本当にそうだ。
貶(けな)しながら大好きってなんだ?
でもその気持ちは俺もわかる。
家康「……ふ、ふふ」
おかしくて笑いがこみあげてきた。
「家康?」
家康「あんたも俺に似てきたんじゃない?馬鹿で、大好きなんでしょ?」
「え?あ、そうだね……。ふふ!
『馬鹿で大好き』は、『凄く大好き』ってことだよ、ふふ」
笑う顔色はさっきよりは少し良いみたいだ。
(良かった…、また笑ってくれて)
頬に手を伸ばすと舞が笑うのをやめた。
家康「この城に留まりたい理由は体調があまりよくないから?」
「うん。少し悪阻の症状が出てきているの。
それにまだ妊娠初期で不安定な時期だから、馬での移動は避けたいんだ」
お腹に手を添える顔はもう、母親の顔だ。
家康「わかった。安定したら安土か、駿府に移動する。
それも舞の気持ち次第だけど。無理はさせないから安心して」
「わかった。でも家康は安土に帰っちゃうんだよね?寂しいな…」
三成がやたらと『ゆっくり』と言った理由がやっとわかった。