第9章 姫がいなくなった(家康)
家康「舞が帰ってきてくれて、子供までできてるなんて、喜ばないはずがないでしょ。
俺がどれだけ舞のことを好きか、わかってない…」
「だってまだ恋仲になったばかりだったでしょ?
『そんなつもりじゃなかった』って言われたらどうしようって。妊娠がわかってからはそればかり…考えてた。
会いたかったのに会うのが怖かったの」
傍に居てあげられたら舞が不安を抱えることなんてなかったのに。
ひとりにしてしまったのは不可抗力だったけど、それでも悔やまれた。
家康「馬鹿……。舞を抱く時に何も配慮しなかったのは、いつできてもかまわないと思っていたからだけど?」
「え……?」
家康「好きだよ、本当に。心の底からそう思ってる。
ちょっとお転婆だけど、優しくて、可愛くて、時々驚くくらい強い内面も。
あと…雨が降ると、いうことがきかなくなるクくせ毛も……全部」
「い、家康?」
突然の告白に舞が腕の中で動きを止めている。
家康「舞みたいな娘、他には居ない。
だからどうしても舞を俺のものにしたくて、他の奴にとられたくなくて、いっぱい抱いた」
一瞬たりとも俺のものだという証が途切れないよう、夜だけでは飽き足らず、早朝に抱いた時もあった。
「そんなに特別な女の子じゃないよ?私……」
恥ずかしそうに身を縮めている。少しだけ見えている耳が真っ赤だ。
これで少しは俺の気持ちがわかっただろう。
家康「俺にとっては特別。日ノ本中の女から一人選べって言われたら、必ず舞を選ぶ」
「家康……」
家康「運命の相手ってそういうものじゃない?」
「運命?私が?」
家康「他に誰がいるの。たとえ他から見て普通に見えても、俺にとっては全然普通じゃない。
一人だけ特別輝いて見えて、どうしても自分のものにしたいって思えた」
舞の手が俺の背に回った。
弱々しかった力が次第に強くなっていく。