第9章 姫がいなくなった(家康)
「あ、そのことなんだけど…」
言い淀む舞に三成は静かに腰をあげた。
家康「どこに行くの?」
三成「私は席を外しますね。先ほども言いましたが、舞様が気の済むまでここに居てもかまいませんからね」
家康「は?」
(どういうことだ?)
二人きりになって舞の顔を覗き込むと、少し顔色が悪かった。
家康「どういうこと?舞はここに留まりたいの?」
「うん……」
舞にとっても佐和山城は初めて来た場所だ。何故そこに留まりたいと思うのか。
家康「理由を教えてくれないと納得できないんだけど」
三成の城に世話になりたくない。一刻も早く出たいくらいなのに。
言いづらそうにしている舞を和ませるために、少しクセのある髪に触れ、こぼれた髪を耳にかけてやった。
白くなっている頬を両手で暖めてやる。
そうすると舞の頬にさっと熱が浮かび上がり、涙とは別の潤みが目を輝かせている。
(ああ、可愛いな……)
口づけしたい衝動をこらえた。
「あっちに帰ってから少しして体調がおかしくなって…」
家康「は!?」
顔色が悪いのは病のせいなのかと、舞の顔色や、全身を改めて見直した。
「だ、大丈夫だよ、落ち着いて聞いて?
それでお医者様に診てもらったらその……」
家康「何?早く言って」
重い病なのだろうか。
なんで500年後で直さず、こちらに帰ってきたんだろう。
けど重い病にしては舞の表情は柔らかい。
(なんだ?)
じりじりした気持ちで待つ。
「家康との赤ちゃんが……できてたの」
家康「え……」
赤ちゃん…って子供のことだよな、なんて当たり前すぎることを考える。
家康「え、ほんと……?」
信じられなくてもう一度確認する。
「うん。迷惑…かな。私は凄く嬉しかったんだけど…」
語尾が不安で震え、止まっていた涙がぽろっと零れた。
舞の目が腫れているのは、もしかしたら俺に子供のことを受け入れてもらえるか、ずっと不安を抱えて泣いていたせい…?
しゃくりあげ始めた身体を抱きしめた。
家康「馬鹿なこと言わないで。迷惑なんてこれっぽっちも思っていないから」
迷惑どころか……嬉しい。