第9章 姫がいなくなった(家康)
「うん」
舞はやっと身を起こして目をあわせてくれた。
泣き濡れた目元は赤く腫れていた。
今泣いたからと言うより、ずっと泣き通しだったのではと思うほどだ。
「正確には城下の外れにある林の中。そこで偶然会った木こり?のおじさんにここの場所を聞いて三成君の領地だって知ったの。
お城を訪ねて名乗ったら大騒ぎになっちゃって…」
三成「そこからは私が説明しますね」
三成が居たのを忘れていた。
人払いしたのだろう、他に人の気配はなかった。
三成「門衛は舞様の顔を知らず、最初は名をかたる偽者だと思ったらしいのです。
しかし舞様の顔を知っている者が城内におりまして、本物だとわかったのです」
家康「それっていつの話なの」
「門前に着いたのは昨日の日暮れ時だよ。私だってわかってくれた頃にはもう暗くなってたけど」
家康「昨日戻ってきていたなら、昨日のうちに会いたかった…」
知っていたなら昨夜のうちに迎えに来たのに。
三成「すぐに安土に知らせをと思ったそうですが、ちょうど雨が降り始めてしまい、朝を待って早馬を出したそうなんです。
遅くなってしまい、申し訳ありませんでした」
「ううん、三成君のお城の人達には良くしてもらったよ。三成君のお城は初めて来たけど、凄く良いところだね」
三成「そう言ってくださると私も嬉しいです。
気の済むまで居てくださってかまいませんからね?
先程城の者と話しましたが皆舞様のお人柄が素晴らしいと申しておりました」
「そ、そんな…。突然押しかけたから迷惑かけちゃったよ。
人柄っていうより、もともと私は庶民だから普通のお姫様より腰が低いからでしょう?」
三成「そんなことありませんよ、舞様」
三成がムカつくくらい笑顔だ。
それを見て舞は感動しているし…。
「う~三成君だ…。また会えて嬉しい」
家康「ちょっと、俺を差し置いて何みつめ合ってんの。
それで?徳川由縁の品っていうのは舞っていうことで良いんだよね。今すぐ連れて帰りたいんだけど」
城を出発する時の信長様と秀吉さんの意味ありげな顔はこれだったのか。
うまく丸め込まれた自分が、ちょっとだけ悔しい。
まあ舞が戻ってきてくれたんだから、良いんだけど。