第9章 姫がいなくなった(家康)
――――
三成は俺を広間に通すと直ぐ、『お品物を連れ…あ、いえ、持ってきますのでお待ちください』と言って姿を消した。
あいつが行ってからしばらくして、
家康「そういえば…割れ物じゃないよな。三成が運んだら十中八九割るぞ?」
気になりだしたら落ち着かなくなったけど、佐和山城に来たのは初めてだ。
どこに行ったか知らない三成を探すより、黙って待っていた方が良いだろう。
特別物にこだわる質ではないし、壊されたら壊されたで別に良い。
やがてサワサワと人の気配がした。
家康「女?」
三成だけじゃない。着物の裾を引きずる音が紛れている。
不思議に思って襖の方を見ていると、まず三成が現れた。
三成「お連れしました」
家康「はっ?誰を?」
徳川所縁の品を取りに行ったはずなのに、ついに三成がボケたのかと思ったが…。
三成が身体をずらすと、すぐ後ろに立っていた女と目が合った。
家康「な……んで、居るの?」
頭がついていかずに、それしか言えない。
女は舞だった。
「家康……ただいま」
舞は涙を流しながら抱きついてきた。
胡座をかいていたところに、体当たりでもされる勢いで抱きつかれ、畳に手をついた。
見慣れない着物を着ているし、纏っている香りが違うけど、受け止めた重みと感触は舞のものだった。
「家康っ、ふぇっ……」
(すぐ泣くとこ、相変わらずだな…)
顔は見えないけど身体が震えているし、鼻をすする音が聞こえてくる。
畳についた手に力を入れて舞の身体を押し返した。
顔が見たい。
家康「どこ行ってたの?」
両手を背中に回して、上から下へ撫でてやる。
「気がついたら500年先の世に戻ってたの」
家康「うん、それで?」
「家康に会いたくて、会いたくて泣いてた」
家康「そう…」
撫でていた背中をぎゅっと抱きしめた。
俺が意地張って感情を押し殺していた間、舞は素直に泣いてくれていたんだと、妙に嬉しかった。
「タイムスリップできるかわからなかったけど、駄目モトで本能寺跡に通ったの。なるべく朝から晩まで居るようにして、そうしたらワームホールが突然開いて……目を開けたら知らない場所に居たの」
家康「それがここ?」