第1章 日ノ本一の…(上杉謙信)(R-18)
謙信「このように早い時間に何をしている」
(え、謙信様っ!?)
まさかと思って振り返ると謙信様と兼続さんが廊下に立っていた。
兼続様は着替えていたけれど、謙信様は寝起きなのか夜着姿だ。
兼続「尚文、お前…何を持って……それは梅ではないかっ!!?!?」
兼続様が持っていた書面を小脇に挟み、血相を変えて歩み寄ってくる。
「…?梅ではなくてうさぎですよ、兼続様」
(兼続様は仕事のし過ぎで目がお疲れなのかしら)
梅の実とうさぎを見間違えるなんてどうかしている。
よく見えるように身体を正面にすると兼続様が唸るように呟いた。
兼続「そのうさぎの名が梅だと言っているっ。それよりこの怪我はどうしたっ」
お城にはうさぎがたくさん居るのに、全部名前を付けているのだろうか?
しかもそれを見分けられるなんて兼続様は流石だ。
「わかりませんが、裏庭におりました」
兼続「裏庭?」
なんでそんな所に居たのかと無言で問われた。
「刀の鍛錬をしていたのです。道場の雰囲気は少し苦手で…いつも裏庭で鍛錬をしておりました」
兼続「わかった。すぐに手当させる、梅をこちらに」
「はい」
梅と呼ばれているうさぎを兼続様は宝物のように大事に抱えた。
傷を押さえていた手ぬぐいがひらりと廊下に落ちたので拾い上げて懐に仕舞いこんだ。
兼続「尚文。悪いが俺の脇に挟んである書面をとってくれるか」
「はい」
言われた通りにすると、謙信様に渡すように言われる。
兼続「謙信様、先程お話を致しましたが、この書面は辰の刻(9時)までに返事を書いて頂く必要があります」
謙信「わかった…。尚文、着替えたら部屋に来い。俺の返事を兼続に届けろ」
そう言えば道着のままだった。
うさぎの怪我に慌てて忘れていた。