第9章 姫がいなくなった(家康)
(家康目線)
どうしてこうなった。
苛ついて仕方ないのに、どうしようもない状況に頭が痛い。
家臣達は俺の苛々を感じ取り、安土を発った時からずっと私語もなく黙々とついてきている。
三成「家康様、急なことで申し訳ありません」
俺の不機嫌な空気を物ともせず、三成は朗らかに笑っている。
三成の城、佐和山城から徳川家由縁の品が出てきたらしく、今すぐ行って確かめてこいと信長様に命令された。
持ってこさせれば良いと言ったのに、何故か『家康にしか運べない重要な物らしい』と言われた。
徳川家に伝わる品で、そんな重要な物がなくなったという話は聞いた事がなかった。
家康「大体、俺しか触れちゃいけない品って何なの?
当主の俺が知らないんだけど」
三成「それが私の文にも詳しいことは書かれておりませんでした」
家康「何かの罠じゃないの?」
俺と三成を呼び出すための罠。それか、安土を手薄にするための罠。
それしか考え付かないくらい胡散臭い話だ。
だが信長様も、秀吉さんも、全然そんな心配はいらないような顔で『早く行け』の一点張りだった。
手勢も少なく、それこそ三成の里帰りと言ってもいいくらいだ。
家康「気が重い…」
三成「それはいけませんね。私の城でゆっくりお休みくださいね」
三成の城で絶対ゆっくりなんてできない。
家康「休みはいらないから、さっさと用事を済ませたら安土に戻る」
三成「そうですか…?ゆっくり過ごされた方が良いと思いますよ」
家康「すぐ帰る。お茶もいらないからな」
三成「ふふ、そう言わずにゆっくりしてください」
随分と『ゆっくり』を強調してくる。
その理由がわかったのは『徳川家由縁の品』がなんなのか、知ってからだった。