第9章 姫がいなくなった(家康)
こいつと居ると眉間の皺が寄りっぱなしになるからと、さっさと追い出そうとすると三成が数冊の本を出してきた。
家康「こっちは何?」
三成「それは舞様が以前より読みたいと言っていた本です」
部屋の空気が張りつめ、廊下の方で家臣がはっと息をのんだのが聞こえた。
家臣をさがらせ、二人きりになる。
家康「あいつはもう居ないんだけど、どういうつもり?」
凍った心に湧き上がる怒りの炎。
なぜ思い出させるんだと、荒れ狂う。
三成「これほど日ノ本を探しても居ないということは、500年後に戻っていったのでしょう」
そんなことわかっている。
舞が消えたその日のうちに予感していた。
三成「ちょっと里帰りして、また戻られますよ。家康様」
ちょっと?
里帰り?
家康「お前っ……、馬鹿なの?そんな簡単なことじゃないだろう!」
三成「簡単なことではありませんが、舞様は戻って来られると思います」
家康「なんで理由もなくそんなことを言えるんだ」
三成「理由はありますよ。舞様は家康様をとても愛しておられました。
自分の意志であちらに戻ったのでなければ、家康様の元に帰ろうと今頃頑張っていることでしょう」
家康「頑張ったところで…道が開くわけがないでしょ」
三成「私は開くと思います」
バン!!
文机を思いっきり叩いた。
(どうしてこいつはいつもいつも俺の神経を逆なでするんだ)
家康「根拠のない三成の意見なんて聞きたくない。悪いけど、出てって」
触りたくないけど、三成の身体を押して廊下まで追いやった。
家康「人の心にズカズカ入り込んでくるの、本気でやめて」
三成が何か言う前に襖をパシンと締めてやった。
三成は舞が帰ってくるのを信じられて、
恋仲の俺が信じられないなんて……やりきれなかった。