第9章 姫がいなくなった(家康)
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冷たく静かな心の隙間に、無理やり入ってくる馬鹿がいる。
無視しても嫌味を言ってもわかっていない、大馬鹿だ。
家康「またか……」
自室の襖を開けて、目に飛び込んできたのは大量の本。
しかも今にも崩れそうな危うい積み方だ。
襖を開けたわずかな振動でユラと揺れた本を、後ろについてきていた家臣が慌てて押さえに行った。
家臣「きっと三成様のご厚意ですね」
書物を綺麗に整えながら家臣が言った。
家康「この間も同じことされたからやめろって言っといたのに」
家臣「そうは言っても、どの書物もとても興味をそそられるものですよ」
家康「……」
それが事実だから憎たらしい。
試しに一番上の本を開いてみれば、日ノ本の人間が大陸に渡り、そこで見た植物について、絵を添えて詳しく書かれている。
大陸ではこの植物のどこそこの部分をあれこれして、なんの薬に使っているようだ、などと書かれている。
(日ノ本の人間が書いたものだから凄くわかりやすいな)
大陸で書かれた本を日ノ本の人間が訳したモノとは違う。
とんちんかんなことばかり言う鈍いやつだけど、俺の好みを嫌という程知っているから本当に憎たらしい。
家康「…後で読むから置いといて」
家臣「はい」
そこからまた、淡々とした一日が始まった。