第8章 姫がいなくなった(秀吉さん)
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秀吉さんが城下へ出ると言うので、一時的に信長様が私を預かってくれることになった。
やることもないので囲碁盤の周囲をぴょんぴょん跳ねて遊んでいると、大きな羽音がして羽黒が欄干に止まった。
鳥目線で見る羽黒は信長様以上に迫力があった。
鳥類という同じ括りの中では、羽黒は私にとって平伏(ひれふ)したくなる王様のように見えた。
「チ……チ……(怖い)」
信長様の影に隠れてそっと伺うと……
羽黒はジ―――――――――っとこっちを見ている。
「チャ………(うぅ…いたたまれないよぉ)」
もしかして食べられちゃうんじゃないかと心配になった。
尻尾をペタリと床につけて怯えていると、信長様が手の平で私の身体を覆ってくれた。
信長「羽黒。こやつは預かり物だ。手を出すなよ」
羽黒は手のひらの下に居る私を覗き込むようにしている。
「チ………チチ……チ(食べないでね、美味しくないよ)」
信長「こやつが怯えている。お前はどこか遊びに行ってこい」
信長様が言うと羽黒はどこかへと飛んで行ってしまった。
「チャ~~~~(うぅ、腰が抜けそう…)」
床にコロンと転がると、書状を読んでいた信長様がふっと笑いをこぼした。
信長「まことにお前は鳥らしくないな。秀吉のところには子猿が居て落ち着かんだろう、俺が引き取ってやるか?」
「チャ……(それはちょっと……)」
首を横に振りたいのに実際は小首を傾げてしまった。
信長「やはり言葉が理解して居るように見えたのは気のせいか?」
『首が思うように動かない……』
がっかりしていると、またバサリと羽音がした。見ると羽黒が欄干に止まっている。