第8章 姫がいなくなった(秀吉さん)
『ん………え?』
春のバラが咲き出した暖かな春の日のこと。
目を覚ましたら私は………小さくなっていた。
小さくなって小人になっているのならまだ救いはあった。
「チ……チ……」
口から出てきた変な声に、自分で驚いた。
『な、何、今の声!?』
恐々、もう一度喉に力を入れてみた。『あー』と発音したつもりなのに……
「チャ~」
口元を押さえようとして手が手ではないと気が付いた。
羽だ、羽が生えている。
『え、何!?羽?』
昨日、何か悪い物でも食べただろうか…。
それともこれは夢?
頬をつねりたくても指がない。
足を見て………泣きたくなった。
『鳥だよね、これ……』
しわしわの足先は小さいけど鋭い爪があった。試しに手をパタパタさせてみたけど元人間のせいか飛び方を知らず、飛ぶことはできなかった。
昨夜は大広間で宴があって、日付が変わる前に自室に戻って寝たはずだ。
特に怪しいものを口にした記憶はない。
布団の上には夜着と帯が、私の寝姿勢を保ったままの状態になっている。
『これ………まずいんじゃないの?秀吉さんが見たら大騒ぎに……』
夜着から身体だけ抜けたような不自然な状態で見つかれば、恋人の秀吉さんが心配して大騒ぎになりかねない。
どうしよう!?と焦るほどに、口からは、
「チャ!チャ!」
としか出てこない。
私は一体なんの鳥になったんだろう。スズメやカラスではないことは確かだ。
白い敷布の上をぺたぺた歩きながら今後を考えていると…
秀吉「舞、起きているか?」
「チャ!(秀吉さん!)」
秀吉「まだ寝ているのか?昨夜少し飲み過ぎていたみたいだから見に来たんだ」
「チャ……(優しいなぁ)」
起こさないように配慮された動きで襖が開いた。
秀吉さんの視界に入るのが怖くて、両足でぴょんぴょんと跳ねて部屋の隅に隠れた。
『どうしよう、夜着が見られちゃう』
予想通りというか、秀吉さんは私の布団を見て目を丸くしている。