第1章 日ノ本一の…(上杉謙信)(R-18)
志乃「それは尚文様が城に来て早々謙信様の傍に居て、さらに女達からも人気を博しているからです」
「え?」
城に来た日に案内をしてくれた女中は志乃さんという名前だった。
湯浴みだけは誰かの協力が必要と感じ、志乃さんに秘密を打ち明けた。
私が湯浴みしている間は出入口に立って他の人が立ち入らないようにしてくれる。
烏の行水のような湯浴みを終えると志乃さんが教えてくれた。
志乃「その中性的なお顔立ちと、女性を気遣ってくれる言動でしょう?女中が言うのも気が引けますが、春日山には謙信様を筆頭に信玄様や義元様など見目麗しい方々がおられます。尚文様はここに来てひと月もしないうちにその方々と肩を並べる程に人気があるんです。
私も尚文様が姫様と知るまでは、なんと素敵な殿方でしょうと胸がうるさかったものですよ、ふふ」
ふんわりと笑っていた志乃さんだけど、すぐに憂い顔になった。
志乃「尚文様は他の武将様達とは違い、小姓見習い。それも代理でいらっしゃいます。
それなのに謙信様直々に傍に居るよう、命じられたでしょう?そのせいか家臣達の中にはあなたを軽んじ、妬み、根も葉もない噂をする方が居るのです」
「なるほど……」
どうやら想像以上に注目を集めてしまっているようだ。
「そんな理由なら辛抱しましょう。もう少しの辛抱ですし」
志乃「正体が明らかになってしまう前に城を去ってもらうのが一番ですが、尚文様とお別れするのは寂しいです」
「ふふ、ありがとう、志乃さん。私も寂しいけれど仕方ありません」
寂しいといってくれる志乃さんだけど、私の秘密がバレたら志乃さんにも咎(とが)が及ぶかもしれない。
家のため、兄上のため、志乃さんのため…
(絶対正体がばれないようにしなくちゃ)
胸にかたく誓った。