第7章 姫が居なくなった(三成君)
「三成君、ただいま」
三成「……」
「三成君……?」
家康「おい、三成っ!」
政宗「しー」
舞は、フフと静かに笑った。
花束を片手に持ち、空いた手で三成が読んでいる書を、えい!と逆さまにした。
三成「ん?」
一心に字を追っていた紫の目に、現実の世界が映った。
「ふふ……」
間近にある、優しい色をたたえた目に息を止めた。
三成「舞……様……?」
「ただいま、三成君。思ったより遅くなっちゃった、ごめんね」
三成「本物…ですか?夢じゃなくて…」
「本物だよ。足もあるし、消えないでしょう?」
久しぶりに聞くおっとりした声が三成の耳に優しく響いた。
三成「…あの時は本当に申し訳ありませんでした。あなたにあんな酷い怪我を…」
舞の気持ちを知りながら気づかないふりをしていたことも伝えたかったが、三成はうまく伝えられなかった。
惨いことをした自覚があるから、喉の奥で言葉が引っ掛かって出てこなかった。
舞は緩やかに首を振って微笑んだ。
「ううん。私が落ちたのが悪いんだよ。ちゃんと治してきたから謝らないで。
それより、これ……受け取ってくれる?」
舞は持っていたチューリップの花束を三成に贈る。
三成「これは見たことがない花ですね。なんという花ですか?」
「チューリップっていうの。この時代にはまだ日本には伝わってきていない花なんだ。
春の花だけどまだ少し時期が早かったからお花屋さんで色々な紫色を集めてきちゃった」
舞の頬が僅かに赤らんだ。