第7章 姫が居なくなった(三成君)
謙信「…休戦だ。馬に乗せたまま仕掛けたのも悪かった」
三成「はい」
(どうやらこの男は女嫌いでも、ただの戦好きでもないようだ)
何か理由があるのだろうが、今は舞様の手当てが優先だ。
三成「舞様……」
(あなたに怪我を負わせてしまうなんて…)
血の気のない頬を軽く叩く。
「…三成君」
意識を取り戻した舞様は息をするのも辛そうだ。
謙信「肩を固定する。舞の身体をおこすぞ。ゆっくり、だ」
三成「はい。舞様、痛みますが我慢をしてくださいね」
二人がかりで舞様の身体をゆっくり起こす。
「う……!」
舞様が呻くと謙信も顔を歪めた。
「三成君…謙信様を傷つけないで。今日拾って下さったのも合わせれば、私を3度も助けてくれた人なの。
謙信様も三成君に手を…はぁ…」
脂汗を浮かべて訴える姿は、見ているこちらが息苦しくなるようだった。
謙信は舞の手を握った。
謙信「わかった。今日のところは手を出さないと誓う。
お前も…越後には連れていかぬ。ここは安土に近い。早々に城に戻り、養生しろ」
「ありがとうございます、謙信様」
この二人は本当にただの顔見知りなのだろうか。そう勘ぐってしまうほど、親密に見えた。
少なくとも謙信には、顔見知り以上の感情があるように見える。
三成「私も約束します、舞様。手当てのために着物を脱がします。目を閉じていていただけますか?」
青白かった頬が羞恥の色に染まった。
三成「なるべく早く済ませます」
「うん…」
応急手当をしたら自陣に戻り、痛み止めの薬を飲ませよう。
なるべく傍についていてあげたい。
怪我を負わせたことを謝って、許してくれるなら治るまで世話をさせてもらいたい。
不器用なのは承知だけど、あなたのために動いていなければ頭が狂いそうだ。
あなたが殺されるかもしれないと思った時、私は後悔した。
なぜ気持ちを知りながら、知らないふりをしたのだろうと。
(大切にしたいと思うなら、まずは舞様の心を大切にしなければいけなかったのに)
中途半端な自分でも、それでも好いてくれたあなたに、どうして私も好きですと言わなかったのか。
死ぬほど後悔した。